前年王者の大量補強により優勝候補筆頭?
24/25シーズンではクロップ監督が長期にわたって創り上げたエネルギー全開のフットボールスタイルを引き継いだスロット監督が、良さを残しながらも安定感を新たに加えて優勝を成し遂げた。この引き継ぎ力はスロット監督が優勝を獲得した一番の要因だと思うし、クロップ前監督の残したチームの偉大さであるとも思う。言い方は悪くなるが24/25シーズンはクロップ監督のチームに少し手を加えただけと言える。そして新たに開幕した25/26シーズンはフロントからの大きな信頼を獲得したスロット監督が自分の色を大きく出すシーズンとなる。新戦力としてヴィルツ、エキティケ、フリンポン、ケルケズ、レオーニ、少し例外的だがママルダシュビリという名だたるメンバーを大金を投じて獲得した。特にレヴァークーゼンから獲得したヴィルツはプレミアリーグ最高額となる約230億円という歴史的な移籍金での加入となった。現8月16日時点で確定している新加入は6人だが、新たにイサク(ニューカッスル)やグエヒ(クリスタルパレス)の獲得も現実的な話となっている。前回王者が移籍市場でも独壇場となっていて、ここまで強力な新戦力を加えたことにより多くの人たちがリヴァプールを優勝予想にあげている。これは当然のことだと思うし、大本命であるのは間違いない。しかし、私はプレミアリーグという過酷な戦場で連覇を果たすことはできないと予想している。これは決して逆張りというわけではなく、私なりにその予想に至る考えがあるので、是非ご覧になってほしい。
発色
先ほどの説明にもあるように、今季は大量補強に成功したスロット体制がスロットという色を強く出すシーズンになると思う。昨季はクロップ前監督が残したスカッドをスロット監督が上手に引き継いで優勝を果たしていた。もちろんスロット監督になったことによる新たな力はあるし、安定感というのは誰が観ても分かるように変わった。ただ、新戦力は冬に獲得したキエーザのみとなっている。クロップ監督が9シーズンに渡って創り上げたスカッドのまま優勝を成し遂げたのだ。クロップのスカッドが最高級の食材だとするとスロット監督は、その食材を最大限に活かせる手を加えたのに近いと思う。もちろん最大限に活かす調理をするのは素晴らしい手腕だと思うし、優勝という功績もスロット監督によるものというのは揺るがない。しかし変な話をすれば、最高級の和牛肉はそのまま食べても十分に美味しい。これが昨季のスロット体制を懐疑的な眼全開視点による1番の印象だ。前置きが長くなりすぎてしまったが、今季はスロット好みの選手(食材)を多く獲得し、クロップ前監督の手がつけられていない選手を多く指導することになる。この今季こそが、初めてスロットという色が強く出てくると思う。そこに私は懐疑的な眼をむけている。スロット自身の色を綺麗に発色させる事ができればもちろん優勝を勝ち取れると思うが、昨季が上手くいきすぎただけにギャップという濁りが入り、外野の声や多額のお金を出資したフロントの重圧という濁りも加わる可能性は大いにある。この魔境リーグを勝ち取るにはこの濁りを跳ね除けて、自分の色を綺麗に出せた時に優勝できると思うため、懐疑的な点にスロットの色を挙げさせてもらった。
衰退
いきなりですが、現リヴァプールの中心選手を思い浮かべてみてください。恐らくサラーやファンダイクを思い浮かべてくれた人が多いと思う。そんなサラーも33歳でファンダイクも34歳になった。この両選手は今もなおリヴァプールの絶対的存在として君臨している。35歳付近では一気に衰えが現れても全くもって不思議ではない。そして私は特にファンダイクに衰えがかなり現れているのではないかと思う。彼のプレースタイルの代表として「待ち」のDFがあると思う。相手をとんでもない圧で見下ろしながら、苦手な場所へ誘導して狩り取る。ある程度相手選手には空間という余裕は与えるが、狩場に踏み入った瞬間に圧倒的身体能力でボールを奪い取る。正直このスタイルは身体能力に依存している部分は大いにあると思う。もちろんトップクラスのリーダシップや落ち着いた対応力は持っているが、ファンダイクの唯一無二を出しているのは能力依存にあると思う。そしてその衰えの影響が、プレシーズンマッチや開幕戦(ボーンマス戦)にも出ていたと思う。前述のように待ちのDFスタイルでは相手選手にある程度ボールを持つ余裕を持たせることになるが、今までのファンダイクなら届いていただろう場面も届かなかったり、本人自身も今までなら届いていたという能力と思考の衰えによるギャップがあると思う。特にコミュニティシールドのクリスタルパレス戦で、サールに脚をかけてPKを献上してしまったシーンはこのギャップにある。もちろんサールの速さが異常というのもあると思うが、ファンダイクにしてはボックス内でのあまりにも軽率な脚の出し方だった。これは今までの本人が思う能力と衰えが来ている能力のギャップで起きたほんの数十センチのずれであるはずだ。他にもここ数試合ではらしくないミスや待ちDFによる相手にスペースを与えたが届かないでチームがピンチを迎える場面が多々見受けられた。このようなチームの絶対的存在であるファンダイクの衰えは、スロットを含めるリヴァプール陣営が想定していない(今季の衰え)と思える。スロット体制の基本フォーメーションは4-2-3-1になっているが、最終ライン4枚の両サイドバックはかなり攻撃的な選手を起用する事が多い。そして相方のコナテは底知れないポテンシャルを持っていて、現状でも怪物的な身体能力をしているが、主に判断面で粗が見受けられる。この最終ラインの弱点を全てカバーするファンダイクに予想もしていない衰えが本当に来ていたとすると大惨事になることは間違いない。私はこの迫り来る衰えを強く感じる為に懸念点の一つに衰退を挙げた。
開幕戦とまとめ
そして迎えた今日の開幕戦。対するはイラオラ監督が率いるボーンマス。ボーンマスは今夏の移籍市場で根こそぎ戦力を取られてしまっていた。昨季の主力DFライン5選手(GK含める)のうち4選手が名門チームに移籍した。そしてリヴァプールが獲得したケルケズはその中の一人だ。移籍市場での狩る側と狩られる側の相対する対戦になったが、リヴァプールはいい試合の入り方をしていた。新戦力のエキティケは素晴らしい働きをしていて、高身長を活かした競り合いや高い足元の技術や上下左右の流動性でボーンマスDFに手を焼かせていた。そんなエキティケが37分にマクアリスターからボールを受けると中央突破でこじ開け、冷静にゴールへ流し込んでプレミアリーグデビュー戦にてプレミアリーグ初得点、コミュニティシールドに続いての連続得点を記録した。前半はリヴァプールペースで進んでいき、そこに何とか喰らいつくボーンマスという構図だった。エンドが変わって迎えた後半の立ち上がりも同じような構図で、49分にガクポがエキティケからパスを受けると2度のシュートフェイントでカットインしていき落ち着いて得点を決めた。この時点では圧倒的なリヴァプールの攻撃力に耐えきれずボーンマスは反撃する術もないと思ったが、アダムスの健闘もあり徐々に刈り取ってからのショートカウンターの形が出てくるようになっていた。このカウンターに怯んだのかリヴァプールも少し勢いが落ちていったがそこを見逃さないのがイラオラ率いるボーンマス。スロットはすかさずに両サイドバックのケルケズとフリンポンを下げて、遠藤とロバートソンを投入し試合を締めに向かったが、懸念点に挙げていたファンダイクのコンディションが上がりきらないところやコナテの判断が軽率なところもあり奪ってからのカウンターがかなり刺さっていた。64分にはリヴァプールが攻撃に矢印を向けたところを奪い取るとアダムスが裏のスペースにボールを配給しブルックスのGKとDFの間にクロスを流し込むという再三狙っていた形が功を奏し、中でセメンヨが冷静に合わせて反撃の狼煙を上げる。すると勢いはボーンマスに傾き、イラオラの象徴とも言えるマンツーマンDFから怒涛の押し込みで即回収というエネルギッシュなフットボールスタイルが輝いていた。76分には自陣のボックス付近からセメンヨが独走し一人で決め切り同点に追いつく。セメンヨは昨季もセンセーショナルな活躍でビッククラブからの注目を集めていた中、クラブとの契約を2030年まで更新して残留を決断している。多くの主力選手が引き抜かれるボーンマスにとって希望の存在である。そんなセメンヨの二発により試合はさらに面白みを増していた。この瞬間はまさにプレミア開幕を実感させるような熱い瞬間だ。このままボーンマスが逆転をするように思えたが、途中出場のキエーザが88分に連携ミスによるクリアミスを逃さずボレーで流し込み突き放すと、アディショナルタイムには遠藤のクリアがそのままサラーの元へ届き、ダメおしの4得点目で試合終了となった。最後は両クラブ間での選手の質で勝敗を分けたと思う。イラオラ監督は自分のフットボールスタイルにプラスして、リヴァプールの弱点を見つけ出してブルックスを左サイドハーフ起用(2得点目のような形は完全に想定していた)にするなどといった万全の準備だったと思う。リヴァプールは懸念にあげられるカウンター耐性の低さが露骨に出ていて、完全無欠の王者とは程遠いと再認識したのが正直な感想だ。とはいえ圧倒的な攻撃力や新戦力の即フィットはかなりポジティブであるのは否めない。
やはり開幕戦を観た上で、自分の挙げた懸念点は暴論のようで間違ってはいないと再認識できるような試合だった。ここから新たにグエヒの獲得が実現することや、ファンダイクが私の懐疑的な意見をぶち壊してくる可能性は大いにあるのは間違いない。ただタイトルにあるリヴァプールは連覇を果たせるのか!?の答えとしては果たせないという意見が私の答えだ。